特別企画 『アズオリン・サマネ』試飲レポート
2007.7.17 By Kazuo Ishikura
今回、プロムテック・ビズが新製品の輸入を開始したという。
詳細は会社の公式HPをご覧いただければ分かるが、この新製品、従来のウォッカの概念には納まらない作り方をしている。一言で言えば、ブラウン系ホワイトスピリッツとでも言うべき微妙な位置づけのアズオリン・サマネ輸入決定の知らせがプロムテック・ビズからもたらされたときの感想は複雑だった。
僕は、現在もストレート・ウォッカ至上主義者だから、当初、同社が『アズオリン・サマネ』の輸入を開始すると聞いたとき、その製法を聞いて怪しからんと思っていた。そもそもピュアであることを信条とするウォッカをウイスキーもどきにするとは、嘆かわしい時代になったとさえ思った。
しかし、実際に試してみることもなく、特定の酒をあげつらうようなことは、バーではもっともつつしむべき言動でもある。
そこでプロムテック・ビズから送られた『アズオリン・サマネ』を行きつけのバーに持参して、色々試してみることにした。以下は、そのレポートである。
[ストレート]
最初に行ったバーで、まず『アズオリン』をストレートグラスに注いでもらった。プロムテック・ビズの社長は嘘のつけない人だから、カラメル着色していることをわざわざパンフレットにまで記載しているが、たしかに色は『ノンチル(低温濾過)・カラメル不使用』というモルトウイスキー好きが奉じる金科玉条には明らかに抵触している。
次に香りを試してみる。意外なことだが、オークの香りとの相乗効果か、特有のライ麦パンの香りはサマネよりもふくよかに強く感じられる。

さて、肝心の味である。持ち込んだアズオリンは常温だったがオークチップのせいか、50度のアルコールのとがりがない。サマネの場合も尖りはないのだが、口に含んだときは地響きを立てて特撮映画の大魔神が地上に降り立ったようなインパクトがある。対してアズオリンはサマネよりもさらに丸くなっている。天然のオークチップがアルコールの尖りを吸収しているからなのか、さほど熟成期間が長いわけではないのに、円熟感さえ感じられる。
筆者が毛嫌いしていたオークチップの浸漬は、調べてみるとシャルドネ系の葡萄酒の中級品を作るときは世界的に一般化している手法らしい。『ワインと洋酒を深く知る言葉171』(講談社)によれば、柔らかさと滑らかさが持ち味のワインの場合、酸素の供給が行われないステンレス・タンクにオーク・チップを投じて熟成させようとするとオークの香味が突出してしまう難点があると言うが、アズオリンの場合はもともとボディーが重量級なので、違和感はない。むしろスペックを知らされずに口に含んだときの感触はウイスキー、それもかなり上質なものに近い。嘘だと思った読者は試して頂きたい。

常温、ストレートで50度は・・・という方になにかいい飲み方はないか。そう思ってアズオリンをベースにしたカクテルをバーテンダーの方に注文して作ってもらうことにした。こういう場合、成功例を列挙するのが普通だが、これだけ変わった素材なので、当然失敗も出てくる。しかし失敗もそのまま伝えることで、新しいレシピに挑戦する方々の参考になるかもしれないと考え、あえて失敗例も載せることにした。チャレンジ精神旺盛なバーテンダー諸兄諸姉の新たなレシピの発表に期待したい。
[モスコーミュール−−−−−−−★★]
まずは今回一番の失敗例。ウォッカ・カクテル定番のモスコーミュールが凄かった。ジンジャービアよりおとなしい筈の生姜が、急に独りよがりの自己主張を始める。とくに甘口のジンジャーエールを使った日には、駄菓子屋の生姜飴に近い後味が残る。どうしても試したいという被虐願望が強い方は、どうなるかを自分の舌で試して実感して頂きたい。
[オールド・ファッション−−−−−−−☆]
ウイスキー系の発想で試してみたオールドファッションはモスコーミュールに比べれば、飲みやすい。もっとも、筆者自身が滅多にオールドファッションは飲まないから、このカクテルを愛好する方は異論があるかもしれない。ただ、マラスキノ・チェリーとの相性には『?』が2つばかりつくことは付言しておきたい。
[ラスティ・ネール−−−−−−−☆☆☆]
ウイスキー系の真っ向勝負でラスティ・ネールを作ってもらう。甘さを警戒してクラッシュアイスを使うことも考えたが『ラスティ・ネール』という荒くれ男の似合いそうな名前にクラッシュアイスは似合わないと思いなおし、50の5強でステアを強めにお願いした。香りに思わず『ホゥ』と声があがる。今回の試飲でストレートのクリーンヒット以降、三振と振り逃げが続いたところに、梅雨空を一掃するようなクリーンヒットの予感。ドランブイをさらに5足してもらうと味もすっかり落ちついた。スタンダード(そのバーではデュワーズだった)と比較してみる。スタンダードで作ったラスティ・ネールはドランブイの蜂蜜とオレンジ香が中心になるが、アズオリンはここぞとばかりにライ麦を主張する。主張はするのだが、これが厭味にならない。アズオリンが甘味と相性がいいということが、少し分かってくる。
[ウイスキー・サワー−−−−−−−★]
先程、モスコーミュールで失敗した炭酸系にリベンジを試みる。香りはやっぱりライ麦パン。シェークしているから香りも立ちあがりはするものの素材ごとにバラける兆候が感じられる。ウォッカとしては決して安くないアズオリンが、ワゴンセールで山積みにされた麦焼酎のようになってしまう。『新人バーテンダーのカクテルみたいになりますね』と味をみたバーテンダーがこぼす。営業時間中のバーに酒を持ち込んでレシピを指定し、試作品の山を築いた筆者としては頭を下げるしかない。
[マンハッタン−−−−−−−☆]
シェリー・ベルモット系ウイスキー・カクテルの王道、マンハッタン。まずいことはないのだが、これならオーバーホルトで作ったのと大して変わりはない上に、またマラスキーノとアズオリンが喧嘩を始める。つくづく相性が悪いらしい。
[ハイボール−−−−−−−☆☆☆☆☆]
甘味との相性がいいことはこれまでの試行錯誤で分かってきた。クラシック・カクテルにすると個性が薄まってしまうこともわかった。ここまで苦戦続きだった炭酸系で最後にかけた勝負が三塁打のクリーンヒットとなった。ウイスキーとは明らかに違うのだが、炭酸が香りをさらに強調して、馥郁と香るライ麦パンをそのまま飲み物にしているような感覚である。とは言え、アズオリンにソーダを加え、レモンを投じただけでは『☆☆☆☆☆』はつかない。本稿を読んでくれた方だけにコツをお教えしよう。
ウイスキーサワーで学んだように酸味とアズオリンの相性がよろしくないので、まずカットレモンをレシピから外す。そしてここからが肝要なのだが、ソーダを加える前にガムシロ1/2tspを加え、軽くステアしてソーダでアップする。この一手間をかけるだけで驚くほど味に奥行きが出てくる。ここまでたどり着いてみると、製法がウォッカで作ったスリングに近くなるが、アズオリン・スリングでは言いづらいので、暫定ハイボールと称することにした。リトアニアではサマネもアズオリンもストレートがほとんどだそうだし、サマネを置いているバーでもカクテルに使うという話は聞いたことがないから、ハイボールのような日本発の傑作が今後意欲的なバーテンダーの創案で出てくる可能性は高い。
ここまで一つずつ、味が近いウイスキー系と製法が近いウォッカ系のカクテルを試してみた。一つずつスタンダードと比較しているから、上に挙げた数の倍を試飲したことになる。酔いは進むし、グラスは目の前のカウンターにのせきれないほど並び始めた。そろそろ潮時かと、バーを後にする。
忘れ物をしたのに気づいたのは、バーを出てからだった。果実系でウォッカといえば押しも押されもせぬ代表格の『あの定番カクテル』を試していなかったのだ。
今から出直すわけにもいかず、もう一軒のバーに足を運んだ。携えてきたアズオリンを渡そうとするとバーテンダーがちょっと笑みを見せて、冷凍庫から霜に抱かれたアズオリンの瓶を取り出した。有り難い、あきらめていたフリーズを試すことができる。
[ストレート(フリーズ)−−−−−−−☆☆☆☆ ]
ロシアではウォッカは普通、常温で飲まれるし、サマネも常温が多い。新製品のアズオリンも常温で飲まれることが多いらしいが、日本ではフリーズが主流であることは変わらない。というわけでフリーズした物を口にして少々驚いた。瓶から注いだ直後でも香りはしっかり立つ。50度の剛健なボディはフリーズすることによって抵抗なく口に入ってくる。肝心なのはここからだ。グラスの霜が溶けると共にゆっくりと香りが強くなってくる。小さなストレートグラスに注がれた一杯が、最初と、途中と、最後で味わいが異なってくるのだ。
さすがに超高級なオールドボトルのスコッチのように、残り香の変化を楽しむ・・・というところまではいかないのだが、この変化はちょっと粋な短編小説を読み進むかのように心地よく、今まではオールドボトルやウン十年物だけでしか楽しめなかった『時間差』を楽しむことが出来る稀有なスピリッツと言っていい。
[ウォッカ・トニック−−−−−−−★]
もう一度、ハイボールの成功を広げたくてトニックを試して、手ひどい返り討ちに会う。ジンやプレーンのウォッカだと、トニックのほろ苦さが味となるが、強烈な個性を持つサマネとあわせると、ほろ苦さがエグ味になってしまう。よくよく柑橘系とは相性が悪いらしい。
[ソルティ・ドッグ−−−−−−−☆☆☆]
そう思いながら、ウォッカ・カクテルの大定番にあえて挑戦してみる。モスコはお話にならないほどの惨敗だったが、ソルティは思わず膝を叩きたくなるほど旨く、心配していた柑橘系とアズオリンの反目も感じられない。むしろライ麦とグレフルの協奏曲が出色と言えるほどの出来に仕上がっていた。試しにスコッチとグレフルを合わせてみると、スコッチの片鱗は伺えるものの、グレフルとハーモニーを奏でるまでにはなっていない。アズオリンとグレフルの相性には、きっと驚かれる筈である。
企画・文
石倉 一雄
プロフィール:ウォッカを始めとするスピリッツ/カクテル、アブサンを追い続ける洋酒ライター。
リトアニアのサマネに注目し、プロムテック・ビズに輸入をリコメンドして日本初輸入を実現させた立役 者でもある。
現在、3年余の沈黙を破って『江戸末期-戦前の日本洋酒/カクテル史(仮題)』出版に向けて鋭意準備中。
協力: Shot Bar POSTU 東京都中野区中野5-46-5-B1 03-3389-5059
Shot Bar ILLUSIONS 東京都中野区中野2-12-11 03-3384-7598
★(株)プロムテック・ビズでは『アズオリン・サマネ』を使ったカクテルやユニークな飲み方のご提案をお待ちしております。
また、当ホームページで『サマネとアズオリン・サマネを飲めるバー』のご案内を掲載させていただきます。お取り扱いいただいているお店のご応募ご連絡をお待ちしております。